おつカレーたち

みなさんは、「即死ってこんな感じなんだろうなあ」という眠りを体験したことがありますか?布団に潜り込むまではわりかし意識があるんだけど、それからの記憶が一切ない、っていうやつです。

 

わたしにもついに今週、それがやってきました。今は初潮が来た女の子みたいな気持ちでブログを書いています。いやあ、実際に経験してみるとただただ怖いですね、即睡は。直前までスマホいじってたのに、布団に入った途端からもう記憶がないんですよ。切れかかってる電球が切れるのは世の中の真理ですが、煌々とついてる電球が突然消えて真っ暗になったら怖いですよね。

 

電球と書いて思い出したんですが、これまたそれで怖い思いをしたことがあります。小学校4,5年って、だいたい泊りがけの研修に行くじゃないですか。「海の学校」とか「山の学校」とかね。今となってはなんの研修なんだって思うけど、わたしは当時何も考えないガキだったので、そりゃあもう前々日くらいからワクワクルンルン状態ですよ。当日も妙なハイテンションで地引網して船に乗りました。

でもね、そんなことは別にどうだっていいんです。なんの「研修」でもないんですよ。それよりも女子小学生にとってはもっと大切なことがある………

そう、恋バナ。

恋バナこそがこのイベントにおける「真の研修」、もとい「女の戦い」なんです。

 

消灯を数分前に控えて、「人事を尽くして天命を待つ」武士よろしく、わたしは一人でトイレに行きました。そう、一人です。当時からわたしには「トイレ友達」という概念がなかった。これがもう致命的なミスとなってしまうんです。

この流れでだいたい予測がつくと思いますが、トイレのドアを閉めたら急に電気が消え、わたしは半泣きで用を足しました。夫に先立たれ、通夜会場で泣きながらティッシュを貪る未亡人のごとく、トイレットペーパーを取るのも先住民スタイルです。しかしその時のわたしの目にはものすごい哀愁が漂っていたと思うし、案外霊の父性本能を刺激してモテたかもしれません。なんとトイレの中でモテキが始まり、トイレの中で終わってしまったのです。それからは来てません。モテの電球は二度と灯ってません。外からわけのわからない虫?鳥?の鳴き声が聞こえてくるし、窓は半開きになってるし、エロさ成分0のぬ~べ~かよと思いました(ぬ~べ~は二話ほどしか見たことがない)。

 

あともう一つ、今でも覚えてるのは「おつカレー」の存在です。みなさんおつカレーを食べたことありますか?食べた方は分かってくれるかもしれませんが、これは本気で、めっちゃくちゃ、どんな名店のカレーよりも、ウマい。甘口なんだけどどこかコクがあって、ご飯とルーの比率がまさに黄金比で、肉、じゃがいも、ニンジンのどの音色も突出せず見事なハーモニーを奏でている。おそらく食堂のおばちゃんは、おつカレーで調和の大切さを教えようとしてましたね。今となってはそんなのバカバカしいだけですが。

で、食べ終わるとその食堂でお茶を継ぎ足してもらって、午後からのアクテビティーに備えて……一度思い出せば止まらないですよね~、こういうの。懐かしい。おつカレーって、なんであんなにおいしいんだろうな。

 

思い出の中に、ここまで深くカレーが食い込んでくることってそうそうないです。たぶん今高いお金を払って有名カレーを食べても、そんなものには意味がないんだろうなあ。もうあの頃のあの味には二度と巡り合えない。しかし今、あれと全く同じカレーを食べたところで、わたしはもう「おいしい」とは思えないんでしょう。

 

身長が伸びてくるにつれ、いろんなものを見下せるようになりました。昔のことを思い出してああだこうだと言う資格や、思春期特有の集団意識を「くだらねえ」と一蹴する資格や、昔の自身を恥ずかしく思える資格。もし未来のわたしがこのブログを見たら、「気持ち悪い」と言って泣きそうです。

 

わたしたちはおそらく、そういった「おつカレーたち」を踏みつけながら、積み重ねながら加齢臭を日に日に強くして生きていくんです。そうして、初めて食べたおつカレーの味なんか忘れてしまう。そしてついには、足元のおつカレーたちの存在すら忘れて、自分はあの頃よりもずいぶん身長が伸びたと、おつカレーを食べてる昔の自分を見下して笑うんです。それのどこが「大人になった」と言えるんでしょう。人生はおつカレーの連続なのに。

 

ああ、ここまで書いて、事前に考えていたオチを忘れてしまいました。華麗におとそうと思ったのに(嘘)、わたしの記憶の泉も涸れてしまったなあ。今夜のカレーは、ちょっとしょっぱくなりそうです。